「仏教タントリズム・資料編」
みずきりょう著
連載第91回
第八章 「ヒンドゥー教」登場
41:「ヒンドゥー教」の聖典②
「マハーバーラタ」とは①
「マハーバーラタ」はBC400年代〜AD300年代と言う長い時間をかけて、現代のような形になったと言われています。作者は聖者「ヴィヤーサ」だと一般的にはされていますが、実際には、前述のごとく、現代のような形になるには長い時間を要しており、良く分からないと言った方が適切でしょう。従って、その成立過程で「ヴィヤーサ」と言う人物が重要な役割を果たしたと言うのが現実に近いのではないでしょうか?
「マハーバーラタ」と言う名前の意味は、何度も記したように「マハー」=大きい・偉大。そして、「バーラタ」=バラタ族物語。つまり、<偉大なバラタ族の物語>。
「マハーバーラタ」の粗筋を一言で言うなら<バラタ族間の同属争い>と言う事になります。ただこれだけでは意味をなさないので、紹介済みの「バガヴァッド・ギーターの世界」を参考にごく簡単にその内容を纏めておきます。
<「マハーバーラタ」の粗筋>
*遠い昔「バラタ」と言う王がいた。その孫が「クル王」で彼が率いる部族を「カウラヴァ」と呼んだ。
*「クル王」の孫が「シャンタヌ王」で、この王がガンジス川を司る女神「ガンガー」(ガンジス川≒「ガンガー」と考えて良いであろう)結婚し、「ビーシュマ」と言う息子が生まれ、彼(息子)はやがて英雄とあがめられるようになった。
*「シャンタヌ王」はやがて、美しい漁師の娘「サティヤヴァティー」とも結婚。そして、2人の息子を生む(単に、2人の息子が生まれたと言うだけではなく、始めから王権継承を目的として生んだとも・・・)。やがて、息子たちは「シャンタヌ王」の死後、次々と王に。しかし、何れも若くして死んでしまう。
*ここでさらに問題が。王妃「サティヤヴァティー」には、昔ある男(聖者)と情を通じ「ヴィヤーサ」と言う一子を生んでいたからである。
*やがて「サティヤヴァティー」は「ヴィヤーサ」を呼び、<夭折した2人の息子の妻たちに、(「ヴィヤーサ」の聖なる力で)子供を産むようにしてほしい>と頼む。その結果「ドリタラーンシトラ」と「パーンドゥ」と言う異母兄弟が誕生する。
*しかし、「ドリタラーンシトラ」は盲目であったため、義弟の「パーンドゥ」が王位を継承。さらにその子孫たちが「パーンダヴァの五王子」と呼ばれるようになる。
(補注:一方、兄「ドリタラーンシトラ」の息子たちは、後に「クルの百王子」と呼ばれるようになる)
*ある日、「パーンドゥ」は、鹿の姿に化けた隠者が彼の妻と交わっていたところを目撃。この隠者を射殺する。しかし、その隠者の霊に呪われ、もう一人の妻と交わっている時に急死する。
*このような事情で、盲目の義兄「ドリタラーンシトラ」が結局は王となる。結果、彼の息子たち「クルの百王子」は、卑劣な手段を使い「パーンダヴァの五王子」を苦しめ始め、さらにいかさま博打で全財産と継承した国を没収してしまう。
*このような辛酸をなめた「パーンダヴァの五王子」であったが、「クルの百王子」から突き付けられた条件を守り、12年間森で亡命生活を送る。彼等の約束は、13年が経過した段階で復権すると言うもので、この期間が経過した段階で、「クルの百王子」に約束を果たすよう要求。しかし、その約束は反故にされる。
*ただ、この13年間の間に、「パーンダヴァの五王子」は、様々な事を学び、多くの味方も獲得。その力を使い、ついに両者は激突する。こうして、「バラタ族」抗争へ・・・
「マハーバーラタ」の中の挿絵(19世紀作)
画像:Wikipediaより