「仏教タントリズム・資料編」
みずきりょう著
連載第381回
<第十六章>
中国の<「仏教タントリズム」(密教)>
72:私論・中国の<「仏教タントリズム」(密教)>
中国の<「仏教タントリズム」(密教)>、その素顔⑨
D:日本の「真言宗」の記録に対する疑問。②
上記のように<伝持の八祖>を整理してみると、様々な矛盾が見えてきます。それを整理してみると、以下のようなところでしょうか。
1:「龍猛」があの「ナーガールジュナ」だとすると、「仏教タントリズム」成立~隆盛時代以前の人物で、接点が希薄であるにも関わらずなぜ一祖と言う最も重要な位置に据えてのか?
2:二祖「龍智」が「龍猛」の直弟子だとすると、100~250年頃の人となり、(生没年代が大きく異なり)三祖「金剛智」・四祖「不空」の師となる事は不可能。
3:生没年代からすると、三祖「善無畏」・四祖「一行」・五祖「金剛智」(ただし、「一行」「金剛智」は生没年代が近く微妙)・六祖「不空」となるはずなのになぜ、三祖「金剛智」・四祖「不空」・五祖「善無畏」・六祖「一行」と順番を入れ替えたのか。
以上です。
勿論上記3疑問点に関しては、筆者の発見と言えるようなものではありません。誰もがすぐ気づくものであるからです。ただ、一般的な「真言密教」関係者の方々はその立場から、この疑問点に関しては暗黙の了解と言った視点でスルーしたのでしょう。ただ、専門の研究者の方々に関しても、同部分を特に重要視した書籍などはあまり出回っていません。不思議と言えば不思議です。
いずれにせよ、公然の秘密とも言えるような矛盾を承知で<伝持の八祖>をなぜ設定したのでしょうか。以下が筆者の答え(推測)です。
1:「龍猛」を一祖とした理由。
*理由A:(お釈迦様を除けば)仏教界最大の実在偉人であり、<「仏教タントリズム」(密教)>の格を上げるためにも「ナーガールジュナ」にルーツを求めた。
*理由B:「ナーガールジュナ」の空の論理は、「真言密教」の根本理念「即身成仏」に通じるものがある。
2:二祖に「龍智」を据えた理由。
*理由C:「金剛智」と「不空」が、著名な実在人物である「ナーガールジュナ」から直接教えを受けたとするには、あまりにも矛盾が大きすぎた。
*理由D:少なくとも筆者の知識範囲では、「龍智」に繋がるような実在モデルは見つからない。つまり、様々な矛盾を解消するために創出した伝説上の人物で、どうしても辻褄合わせの為に必要であった。
*理由E:約700歳まで生きた。嘘である事が誰にでも分かる事を承知でむしろベールに包まれたままの存在とした。仮に、500~600年の穴埋めのために、3~5人程度の伝説上の祖を加えると、さらに細かな架空の話を積み重ねる事になり、無意味な論議を繰り返す事になりかねないため。
3:生没年代別とは異なる、八祖の順番設定を行った理由。
*理由F:「真言密教」(そのルーツ、中国の<「仏教タントリズム」(密教)も)は、実動段階では「不空」を最重要人物として、「不空」~「恵果」~「空海」を正当な伝承経路と考えていた。ただし「善無畏」と「一行」の功績はあまりにも大きく、それを無視することが出来ないため、「不空」の後に五祖「善無畏」・六祖「一行」を後付け的に加えた。
*理由G:「真言密教」(そのルーツ、中国の<「仏教タントリズム」(密教)も)は、「両界曼荼羅」と言う表現がある通り、「大日経」「胎蔵界」系と「金剛頂経」「金剛界」系と言う2つの重要世界から構成されている。ただし理論面では、やや「金剛頂経」「金剛界」を上位と見ている可能性が強い(筆者私見)。
三祖「金剛智」 画像のURL 八祖大師 (taihodo.co.jp)
四祖「不空」 画像のURL 八祖大師 (taihodo.co.jp)
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